コラム

【19-20AW】「CELINE(セリーヌ)」、トレンドへの反抗

 前回の「ルイ・ヴィトン」のコラムに続き、今回は、エディ・スリマンによるセリーヌを紹介する。

 「ルイ・ヴィトン」の項での冒頭でも述べた通り、これが「セリーヌ」メンズラインにおける、パリ・コレクション初参戦となる。仏名門メゾンである「セリーヌ」自体、19SSシーズンになるまでは特にメンズラインを設けていなかった。エディの就任に伴い、新たにローンチした格好だ

 「セリーヌ」でのデビューコレクションとなった先シーズンは、エディのアイデンティティでもある、中性性をテーマにしていた。ランウェイにはウィメンズも登場し、ショー自体も非常に長いものとなった。

 しかし、それ以上に話題となったのが、その変わらぬスタイルだった。

 メディアによっては「(前任の)サンローランと全く変わらない」、「(就任した歴史ある)ブランドへのリスペクトがない」、「自分のブランドを作ってやれ」といった、厳しい批判を浴びせるものもあった。一方、「エディの信奉者」の多くにとっては、待望のコレクションであっただろう。彼を敬愛する者にとっては、現在のストリートスタイルにはうんざりしている筈だ。ブレないスタイルのエディを心待ちにしていたことは、想像に難くない。

 何れにせよ近年、これほどまでに賛否両論が分かれたコレクションはなかっただろう。

 そして、「セリーヌ」での2シーズン目となった今シーズン。

 「エディ・スタイル」はやはり、微塵も揺るがなかった印象だ。

 極端に細い裾幅のパンツにナロータイ。マッシュヘアーにアイウェアといったスタイルは、どこか中性的で少年のような印象を与える。それでいてロックでエッジィなスタイルが、エディの持ち味だ。幼少期に触れたミック・ジャガーデイビッド・ボウイといったスターたちが、彼のクリエイションに多大な影響を与えている。

 ここで、エディ・スリマンという人物について、簡単に話しておきたい。

ディオール・オム時代のエディ。左は故・カール・ラガーフェルド

 
 エディ・スリマンの名前が一躍有名になったのは、1997年のことだ。

 故・イヴ・サンローランがまだ現役のデザイナーであった当時、エディはブランドの既製服ラインであった、「イヴ・サンローラン・リヴ・ゴーシュ(現サンローラン・パリ)」のメンズ・ディレクターに抜擢される。その後の3年間で見事にブランドを若返らせたエディは、2000年に立ち上がった「ディオール・オム(現ディオール)」の初代クリエイティブ・ディレクターに就任した。


 エディはそこで、00年代のメンズファッション界における中心的存在となる。

 一言でいうならば、エディはモードを細身のスタイルへとシフトさせた。巷でも、70年代以来のスキニーブームへとパラダイム・シフトが起こり、セレクトショップやファストファッションもこぞって細身へと傾倒した。蜂をアイコンとする彼のブランドは、毎シーズン世界中でピックアップされ続けた。

 ところが、エディは2007年に「ディオール・オム」を去る。すると、モード界における細身のスタイルは、少しずつ陰りを見せはじめた。やがて、ストリートブームの到来と共にパンツの裾幅は徐々に太くなり、ジャケットやシャツのショルダーラインは落ちていった。そして、2010年代も中盤になると、ワイドシルエットのパンツや、ダッドシューズといったアイテムが、様々なブランドで採用されることになる。

 それらは、かつてエディの提案したものとは真逆といっても良いスタイルだ。

 ストリートスタイルが勃興し、トレンドの中心となる前後の2012年。エディは創業者が故人となった「サンローラン・パリ」へと帰還し、ファッション界へ待望の復帰を果たす。そこで4年間、クリエイティブ・ディレクターを務めた後、2年の月日を経た2018年、現職の「セリーヌ」へとやって来た。

 
 閑話休題。エディが「セリーヌ」のチーフ・デザイナーに抜擢された理由としては、親会社であるLVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)が、前任者のフィービー・ファイロに劣らない実績を誇る、デザイナーを用意したいとの思惑があったことは間違いない(フィービーもまた、この10年間のレディースにおけるモードの牽引者だった)

 加えて、現在のストリートスタイルだけではない、多様性を確保した上でメンズラインをローンチし、既存のエディファンや新規顧客を獲得したいとの思惑があったのだろう。エディのスタイルは、現在のストリートスタイル全盛期にこそ、かえって目立つ存在と言える

 そして何より、「変わらないスタイル」だと批判されるにも関わらず、エディはビジネス面で数字を残してきた。「サンローラン」時代には14四半期連続で20%以上の増収益を記録し、2016年にはブランドの売り上げが12億ユーロまで達した。

 これは、エディのスタイルに対する需要を物語っていることは間違いない。

 それだけではない。エディのスタイルは、再びモードの中心にすらなり得る。

 「ディオール」をはじめ、他の多くの有力メゾンもランウェイに多数登場させたことから、テーラードスタイルの復権が予感される。ストリートから、次のモードはテーラードスタイル、特にクラシカルなものへと移る可能性は充分にある。

 また、レオパードやエキゾチックな柄も、今後のトレンドとなる兆しを見せている。先のロンドンコレクションにおける、「ジョン・ローレンス・サリバン」にも登場したが、これらはエディのスタイルにも非常に合っているものだ。

 やがてストリートスタイルが終わりを迎え、「nextモード」が訪れたとき。エディのスタイルが再びトレンドの「コア」となるか、それとも現状と変わらず「アウトサイダー」のままか。個人的にも、非常に気になるところだ。

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この記事を書いた人
瀬川 俊太朗
c-styleのバイヤー兼鑑定士。某大手ブランド買取店での長きに渡る 査定の経験により、得意ジャンルは幅広く、ラグジュアリーブランドは もちろん、モード、ドメスティック、ストリート、また、バッグ、時計、 アクセサリーなどの小物系も得意としている。趣味は山登り。